"ベトナムで従業員を雇用する際、労働法と雇用契約に関する正確な理解は不可欠である。2026年1月1日に施行された雇用法(Employment Law 2025)と、2026年7月1日に施行される電子労働契約に関する新規制(Decree 337)は、企業の人事・労務管理に大きな影響を与える。本ガイドでは、これらの新法の内容、労働契約の種類、労働時間、最低賃金、そして実務上の注意点について包括的に解説す..."
ベトナムで従業員を雇用する際、労働法と雇用契約に関する正確な理解は不可欠である。2026年1月1日に施行された雇用法(Employment Law 2025)と、2026年7月1日に施行される電子労働契約に関する新規制(Decree 337)は、企業の人事・労務管理に大きな影響を与える。本ガイドでは、これらの新法の内容、労働契約の種類、労働時間、最低賃金、そして実務上の注意点について包括的に解説する。
2026年1月1日施行:雇用法2025の主要改正点
雇用法2025は、2013年の旧法から10年以上ぶりの大規模な改正であり、従業員保護の強化と企業の柔軟性向上の両立を目指している。最も重要な改正点は、失業保険制度の拡充である。
失業保険の対象拡大
旧法(2013年)では、失業保険の対象は無期限契約、有期限契約、そして3ヶ月以上12ヶ月未満の季節労働・特定業務契約に限定されていた。新法(2025年)では、対象が大幅に拡大され、1ヶ月以上3ヶ月未満の契約、月給が社会保険の最低賃金以上のパートタイム労働契約、そして名称を問わず雇用関係を示す内容の契約も対象となった。この変更により、短期契約やパートタイム労働者も失業保険の恩恵を受けられるようになり、労働者保護が強化された。
失業保険料の上限設定と失業手当の改定
新法では、失業保険料の上限が明確に設定された。従業員は月給の最大1%、雇用主は月給総額の最大1%、国は月給総額の最大1%を負担する。特別な状況(経済危機、自然災害、疫病など)においては、政府が保険料を減額したり、直接的な財政支援を提供したりすることが可能となった。
失業手当については、最後に失業保険に加入した月の地域別最低賃金の5倍が上限として設定された。2026年1月1日からの上限額は、Zone Iで26,550,000 VND/月、Zone IIで23,650,000 VND/月、Zone IIIで20,700,000 VND/月、Zone IVで18,500,000 VND/月となる。この上限設定により、高所得者の手当が適正化され、失業保険基金の持続可能性が確保される。
失業手当の受給開始時期の短縮
旧法では、完全な申請書類を提出してから16日目に失業手当の受給が開始されていたが、新法では11営業日目に短縮された。この5日間の短縮により、失業者はより迅速に経済的支援を受けられるようになり、生活の安定が図られる。
短期契約者の失業手当受給資格の明確化
新法では、短期契約者の失業手当受給資格が明確化された。1〜12ヶ月の契約の場合、契約終了前36ヶ月以内に12ヶ月の保険料納付が必要となる。一方、12ヶ月以上または無期限契約の場合は、従来通り契約終了前24ヶ月以内の保険料納付が要件となる。この区別により、短期契約者が不利にならないよう配慮されている。
障害者雇用の優遇措置
新法では、障害者を雇用する雇用主に対して、最大12ヶ月間失業保険料を減額できる優遇措置が導入された。この措置は、障害者の雇用機会を拡大し、社会的包摂を促進することを目的としている。
2026年7月1日施行:電子労働契約の義務化
2026年7月1日から、すべての電子労働契約は政府の中央集中型プラットフォームでデジタル管理することが義務化される(Decree 337)。国家電子労働契約プラットフォームは2026年7月1日までに稼働開始する予定であり、企業はそれまでにシステムへの対応を完了させる必要がある。
この新規制により、労働契約の管理が効率化され、透明性が向上する。また、労働者と雇用主の双方にとって、契約内容の確認や変更が容易になる。企業は、既存の人事管理システムを新しいプラットフォームに統合するための準備を進める必要がある。
労働契約の種類と実務上の注意点
ベトナムの労働法では、2種類の労働契約が認められている。第一に、無期限契約(Indefinite-term contract)である。これは雇用期間を定めない契約であり、最も一般的な契約形態である。第二に、有期限契約(Fixed-term contract)である。これは契約開始日から36ヶ月以内の期間を定めた契約であり、期間満了後は自動的に無期限契約に移行する(更新しない場合)。
実務上、多くの企業は最初に有期限契約を締結し、試用期間や業務適性を評価した後、無期限契約に移行するケースが多い。ただし、有期限契約を繰り返し更新することは、労働者の権利保護の観点から制限されており、一定期間経過後は無期限契約に移行する必要がある。
労働時間と残業規制
ベトナムの労働法(Law No. 45/2019/QH14)第105条によれば、標準労働時間は1日最大8時間、1週間最大48時間と定められている。これは成人労働者に適用される基準であり、未成年者や特定の業種にはさらに厳しい制限が適用される場合がある。
残業については、労働法で上限が設定されており、業種により異なる。一般的に、残業時間は年間で一定の上限を超えてはならず、違反した場合は罰則が科される。また、残業手当は通常の賃金に対して一定の割増率が適用され、平日、週末、祝日によって割増率が異なる。
実際には、外国直接投資(FDI)セクターでは平均労働時間が週51時間に達しているというデータもあり、残業が常態化している業種も存在する。企業は、労働時間の適切な管理と残業手当の正確な計算を行うことで、法令遵守を確保する必要がある。
最低賃金と社会保険
2026年の地域別最低賃金は、Zone Iで5,310,000 VND/月、Zone IIで4,730,000 VND/月、Zone IIIで4,140,000 VND/月、Zone IVで3,700,000 VND/月となっている。企業は、従業員の給与がこれらの最低賃金を下回らないよう注意する必要がある。
社会保険については、ベトナムで労働許可を取得して働く外国人労働者も強制加入の対象となる。企業内異動でない形式で労働許可を取得した場合、国内の社会保険に加入する義務がある。社会保険料は、従業員と雇用主の双方が負担し、健康保険、年金保険、失業保険などが含まれる。
外国人労働者の注意点
外国人労働者がベトナムで働くためには、労働許可が必要である。労働許可の取得には、学歴証明、職務経験証明、健康診断書、無犯罪証明書などの書類が必要となる。企業内異動の場合と現地採用の場合では、取り扱いが異なるため、事前に確認が必要である。
ベトナム現地法人が外国人労働者の給与を支払う場合、労働契約を交わし、社会保険に加入する必要がある。また、個人所得税(PIT)の申告と納付も義務付けられている。2026年1月から、扶養家族控除が大幅に増加したため、外国人労働者も税負担の軽減を受けられる可能性がある。
企業への推奨事項
2026年の新法施行に伴い、企業は以下の対応を行うことが推奨される。第一に、給与計算ソフトウェアを更新し、新しい失業保険の上限額や税制に対応させる。第二に、労働契約と給与表を見直し、地域別最低賃金の変更に対応する。第三に、扶養家族控除の再評価を行い、従業員が最適な税負担となるよう支援する。第四に、電子労働契約システムの準備を2026年7月までに完了させる。
ベトナムの労働法は複雑であり、頻繁に改正される。企業は、現地の労務専門家や法律事務所と協力しながら、常に最新の法令に対応することで、法令遵守とリスク管理を徹底する必要がある。適切な労務管理は、従業員の満足度向上と企業の持続的成長につながる重要な要素である。



