"ベトナム最大の商業都市ホーチミン市(HCMC)の飲食(F&B)シーンにおいて、近年最も注目すべきトレンドが「伝統的ベトナム料理のファインダイニング化」です。ストリートフードのイメージが強かったベトナム料理が、革新的なシェフたちの手によって、世界水準のガストロノミーへと昇華されつつあります。 その..."
ホーチミン市の最新ファインダイニング事情:Pot au Pho 2.0に見るベトナム料理の革新と高級化トレンド
ベトナム最大の商業都市ホーチミン市(HCMC)の飲食(F&B)シーンにおいて、近年最も注目すべきトレンドが「伝統的ベトナム料理のファインダイニング化」です。ストリートフードのイメージが強かったベトナム料理が、革新的なシェフたちの手によって、世界水準のガストロノミーへと昇華されつつあります。
フォーを再定義する「Pot au Pho 2.0」
その象徴的な存在として現在話題を集めているのが、1区のTon That Dam通り(91番地)にオープンした「Pot au Pho 2.0」です。このレストランは、ベトナムの国民食である「フォー(Pho)」をテーマにしながらも、従来の食堂の概念を完全に覆す体験を提供しています。
店内はわずか14席の洗練されたカウンターのみで構成され、提供されるのは1人あたり350万VND++(約2万円以上)という、ベトナムの物価水準からすれば破格のテイスティングメニューです。

メニューは、フォーのスープをベースにしたフランスの伝統料理「ポトフ」の技法を取り入れ、最高級の和牛、トリュフ、フォアグラ、そしてベトナム各地から厳選された希少なハーブやスパイスを複雑に組み合わせています。器の温度管理からスープを注ぐプレゼンテーションに至るまで、劇場型の食体験(シアトリカル・ダイニング)が演出されています。
市場を牽引する「プログレッシブ・ベトナム料理」
Pot au Pho 2.0の成功は孤立した現象ではありません。ミシュランガイドが2023年にベトナムに進出して以来、HCMCでは「Anan Saigon」(ミシュラン1つ星)に代表されるような、伝統的なレシピにフレンチやモダンスパニッシュの技法を融合させた「プログレッシブ(革新的)・ベトナム料理」のジャンルが急成長しています。
このトレンドの背景には、以下の要因があります:
- 富裕層・新中間層の拡大: 高価な食体験に投資を惜しまない国内の若き富裕層(ミレニアル世代・Z世代)の台頭。
- ガストロ・ツーリズムの増加: 高品質な食体験を求めて訪れる欧米やアジア圏からの感度の高い観光客の増加。
- 海外帰りの若手シェフの活躍: 欧米の星付きレストランで修行を積んだベトナム人シェフたちが帰国し、自国のアイデンティティを再解釈していること。
HCMC飲食市場の価格帯別セグメント変化
HCMCのF&B市場は、長らく「1杯5万VND(約300円)以下のストリートフード」が圧倒的なシェアを占めてきました。しかし現在、市場構造は明確に変化しています。
ストリートフードのシェアが相対的に低下する一方で、客単価100万VNDを超えるファインダイニングのセグメントが、全体の約7%(推定)を占めるまでに成長しています。このニッチながら高収益なセグメントは、利益率が高く、都市のブランド価値向上にも直結するため、国内外の投資家から熱い視線を浴びています。
ホーチミン市のファインダイニング市場は、単なる西洋料理の模倣から脱却し、「ベトナムのテロワール(風土)」を武器にした独自のアイデンティティを確立する成熟期を迎えています。



