"ホーチミン市の飲食(F&B)市場は、経済成長に伴う中間層の拡大を背景に活況を呈していますが、その裏で競争環境はかつてないほど激化しています。特に日系飲食チェーンにとって、一等地における賃料の高騰と、現地消費者の嗜好の急速な変化(ローカライズの壁)は、事業の存続を左右する重大な課題となっています。..."
ホーチミン市の飲食(F&B)市場は、経済成長に伴う中間層の拡大を背景に活況を呈していますが、その裏で競争環境はかつてないほど激化しています。特に日系飲食チェーンにとって、一等地における賃料の高騰と、現地消費者の嗜好の急速な変化(ローカライズの壁)は、事業の存続を左右する重大な課題となっています。
1区・3区の賃料高騰と出店戦略の見直し
ホーチミン市の中心部である1区や3区の商業スペース賃料は、2026年第1四半期に入りさらに上昇傾向にあります。一部の優良物件では、コロナ禍前の水準を大きく上回る平米あたり100ドル超の賃料が設定されるケースも珍しくありません。この賃料高騰は、客単価を抑えつつ回転率で勝負する多くの日系カジュアルダイニングにとって、致命的なコスト圧迫要因となっています。

出所:Vietnam Insight編集部作成
その結果、日系飲食チェーンの出店戦略に変化が生じています。中心部の路面店への出店を控え、賃料が比較的安定している新興住宅街(7区やトゥドゥック市など)のショッピングモール内への出店や、デリバリーに特化したクラウドキッチンの活用へとシフトする企業が増加しています。
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ローカライズの壁:本格和食か、ベトナム風アレンジか
コスト問題に加えて、メニューの「ローカライズ」も大きな壁となっています。ベトナムの消費者は日本食に対して「ヘルシー」「高品質」というポジティブなイメージを持つ一方で、味付けに関してはより濃い味や、スパイシーな風味を好む傾向があります。
「本格的な日本の味」を貫くか、それとも「現地の嗜好に合わせたアレンジ」を加えるか。このジレンマに対し、成功している日系チェーンの多くは、看板メニューの味は守りつつ、サイドメニューやソースのバリエーションで現地のニーズに応えるという「ハイブリッド戦略」を採用しています。また、SNS映えを意識した盛り付けや、ベトナムの若者に人気の抹茶や柚子を使ったデザートメニューの拡充も、集客の重要な要素となっています。
激化する競争と今後の展望
ホーチミン市のF&B市場には、韓国系や台湾系、そして急速に力をつけているローカルの飲食チェーンも続々と参入しており、競争は激化の一途を辿っています。日系飲食チェーンが生き残るためには、単に「日本食であること」に胡坐をかくのではなく、徹底したコスト管理、ターゲット層に合わせた出店エリアの選定、そして現地のトレンドを機敏に取り入れた商品開発が不可欠です。ホーチミン市のF&B市場は、真の経営力が試される成熟期へと突入しています。



