ベトナム次世代ホテルの3トレンド:voco・Fairmont・Jivaが示すホスピタリティの未来
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エリア情報 2026年4月25日 3分で読めます

ベトナム次世代ホテルの3トレンド:voco・Fairmont・Jivaが示すホスピタリティの未来

"ベトナムのホスピタリティ市場は、ここ数年で著しい発展を遂げている。特に2026年に入ってからは「次世代ステイ」と呼ばれる新たな潮流が顕著になっており、単なる宿泊施設の提供にとどまらず、訪れるゲストの多様化するライフスタイルや価値観に合わせた、体験型サービスの深化が進んでいる。この背景には、経済成長に..."

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ベトナムのホスピタリティ市場は、ここ数年で著しい発展を遂げている。特に2026年に入ってからは「次世代ステイ」と呼ばれる新たな潮流が顕著になっており、単なる宿泊施設の提供にとどまらず、訪れるゲストの多様化するライフスタイルや価値観に合わせた、体験型サービスの深化が進んでいる。この背景には、経済成長に伴う中間層の拡大や、海外からの観光客の増加、さらにはデジタル技術の普及がある。加えて、世界的なSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりも、ベトナムのホテル業界の方向性に大きな影響を与えている。

まず、歴史的な文脈を踏まえると、ベトナムの観光産業は1990年代のドイモイ(刷新)政策以降、急速な成長を見せてきた。特に2000年代以降は国際的な観光地としての認知度が高まり、ホーチミン市やハノイ、ダナン、フーコック島などが主要な拠点となっている。こうした中で、従来の大規模リゾートホテルやビジネスホテル中心の供給から脱却し、顧客の細分化に対応した多様な宿泊形態が求められるようになった。2020年代に入ると、コロナ禍を経て消費者の旅行に関する価値観が変化し、「体験」と「健康・環境配慮」が新たなキーワードとして浮上した。これが「次世代ステイ」というトレンドの形成を後押ししている。

この流れの中で、三つの主要なトレンドが際立っている。

第一は、ライフスタイルホテルの拡大である。これは単なる宿泊施設ではなく、地域の文化やアート、食事、デザイン性などを融合させ、宿泊者に独自の体験を提供するホテル形態を指す。IHGグループのvocoブランドのホーチミン市進出は、まさにこの潮流の象徴的な事例だ。vocoは落ち着いたデザインとモダンな快適性を兼ね備え、若年層やミレニアル世代のニーズを捉えている。例えば、地元のアーティストとコラボレーションしたインテリアや、屋上のスカイバーを備えるなど、滞在そのものを楽しむための工夫が随所に見られる。このようなホテルは、単に寝泊まりする場ではなく、SNS映えするスポットとしても注目され、都市観光の新たな魅力創出に寄与している。

アナリストのファン・ミン・トゥアン氏(ホスピタリティ市場専門)は、「vocoの進出はベトナムの都市型ホテル市場に新しい風を吹き込む。従来の大量供給型から質と体験に重きを置く時代への転換点だ」と指摘する。彼はさらに、「こうしたライフスタイルホテルは、国内外の若い消費者層の心を掴むだけでなく、ベトナムの都市ブランドの価値向上にも寄与する」と述べている。

第二のトレンドは、ウェルネスリゾートの増加だ。これには、心身の健康を追求する旅行者のニーズに応え、スパやヨガ、瞑想、自然体験などのプログラムを充実させたリゾートが含まれる。2026年末にオープン予定のFairmont Phu Quocはその代表例である。ここでは、ラグジュアリーな環境の中で、健康志向の高い旅行者が長期滞在やリトリートを楽しめるよう設計されている。施設内には有機食材を用いたレストランや、海と森を一望できるウェルネスセンターがあり、自然との調和をテーマにしたサービスが特徴的だ。

世界的に見てもウェルネスツーリズムは成長市場であり、2025年のグローバル市場規模は約1.2兆ドルに達するとされている。ベトナムもこの波に乗る形で、都市部から離れたリゾート地の開発を加速させている。観光庁の関係者は、「健康志向の高まりは、単なる観光から体験型の旅行へと消費者の価値観を変えつつある。これに応えるリゾートが今後の市場の主役になるだろう」と語る。

第三は、エコ・ブティックホテルの台頭である。環境保護や地域社会との共生を重視した小規模ホテルで、持続可能な観光を志向する旅行者に支持されている。タイ資本のJivaがダナン近郊で展開している事例が注目されている。Jivaでは、地元の自然素材を活用した建築、再生可能エネルギーの導入、廃棄物削減の徹底などが行われており、環境負荷の軽減に努めている。また、地域の農家や職人と連携したプログラムも用意し、観光の恩恵が地元に還元される仕組みを構築している。

環境問題に詳しいエコツーリズム研究者のリー・トゥアン・ハン氏は、「エコ・ブティックはSDGsの理念を体現するものであり、ベトナムの観光資源の持続的発展に不可欠だ」と述べる。また、「このタイプのホテルは、単に環境に優しいだけでなく、地域の文化や自然の魅力を深く体感できる点が大きな魅力」と指摘する。

こうしたホテルの多様化は、宿泊客の行動や消費傾向にも変化をもたらしている。ベトナム観光局の統計によれば、平均宿泊日数は従来の約3.2泊から4.1泊に延びており、より深い体験や地域文化への没入を求める動きが強まっている。また、国内旅行者の消費額も1人あたり28%増加しており、高付加価値化が進んでいる。こうした消費の質的向上は、ホテルの収益性にも直結しており、2026年第1四半期のRevPAR(客室単価×稼働率)は前年比15%増と、市場は活況を呈している。

都市 2025年比 RevPAR成長率 (%)
ホーチミン市 +18
ダナン +14
フーコック +20
バリ島 +5
プーケット +8

この表からもわかるように、特にホーチミン市やフーコックの成長率が際立っている。ホーチミン市は都市型ライフスタイルホテルの需要増加、フーコックはリゾート地としての人気上昇が要因だ。これらの地域は、インフラ整備や国際線の増便も進んでおり、今後さらなる成長が期待される。

一方で、こうした成長の陰には業界が直面する課題も存在する。最大の問題は深刻な人材不足だ。業界の離職率は30%を超えており、質の高いサービスを維持するための人材確保と育成が急務となっている。特にウェルネスやエコツーリズムに対応できる専門知識を持った人材が不足している状況だ。加えて、地方のリゾート地では交通や通信など基盤インフラの未整備も指摘されており、観光客の利便性向上が求められている。

観光業界の経営者は、「人材教育にもっと投資しなければ、せっかくの施設やサービスも評価されにくい。国や地方自治体と連携した人材育成プログラムの充実が必要だ」と語る。また、政府レベルでも、2027年のAPECサミット開催に向けて観光インフラ整備を加速させる動きがみられ、これが業界全体の底上げにつながる可能性がある。

日本の企業や投資家にとっても、ベトナムのホテル市場のこれらのトレンドは重要な示唆を含んでいる。まず、日本の豊富なホスピタリティノウハウを生かした「次世代ステイ」への参入機会が広がっている。特にライフスタイルホテルやウェルネスリゾートでは、日本の高品質なサービスや健康志向のコンセプトがマッチしやすいと考えられる。また、エコ・ブティックホテルに関しては、日本企業が持つ環境技術や地域活性化の経験を活かすことで、現地との協業や新規事業展開が期待できる。

さらに、ベトナムの観光市場は日本からの訪問者も増加傾向にあり、相互の交流拡大による経済効果も見込まれている。投資の観点からは、今後のインフラ整備や人材育成支援に資金を投入し、長期的な成長を支えることが重要だ。加えて、デジタル化やAIの活用による顧客データ分析やマーケティング戦略の高度化も、日本のIT企業やスタートアップにとって有望な分野と言える。

今後の展望としては、ベトナムのホテル市場は質的な成長にシフトし、体験価値の提供を軸にした多様な宿泊形態がさらに広がっていくだろう。特に、ウェルネスとサステナビリティを両立させた施設の増加は、世界的トレンドとも合致しているため、持続可能な観光のモデルケースとして注目される可能性が高い。ただし、成長を持続させるためには、人材不足解消やインフラ整備の遅れといった課題をクリアしなければならない。これらの問題に取り組むことが、ベトナム観光産業の国際競争力強化の鍵を握っている。

また、政府や業界団体による規制整備や支援策も重要な役割を果たす。例えば、環境配慮型ホテルの認証制度の導入や、ウェルネス分野の標準化、観光人材の育成プログラム推進などが期待されている。これにより、海外からの投資促進やブランド価値の向上が見込まれ、さらなる市場拡大へとつながるだろう。

ベトナムのホテル業界は、経済成長と観光需要の増加を背景に、多様化と質の向上を同時に追求する重要なフェーズに入っている。voco、Fairmont、Jivaといった事例は、その最先端を示しており、今後も同様のイノベーションや多様な顧客ニーズへの対応が続くことが予想される。投資家や事業者はこうした動きを注視し、変化に柔軟に対応していくことが求められている。

出典: Vietnam Insight

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