"2026年4月11日、ベトナム国会常務委員会は、国内のすべてのガソリンおよび関連燃料に対する特別消費税率を0%に設定する新たな決議を採択した。この措置は2026年4月16日から6月30日まで適用される。中東情勢の緊迫化、特にイラン紛争による世界的なエネルギー価格の高騰を受け、国内市場のインフレ圧力..."
ベトナム国会が燃料税ゼロ措置を6月末まで延長:イラン紛争下のエネルギー価格安定策の全容
2026年4月11日、ベトナム国会常務委員会は、国内のすべてのガソリンおよび関連燃料に対する特別消費税率を0%に設定する新たな決議を採択した。この措置は2026年4月16日から6月30日まで適用される。中東情勢の緊迫化、特にイラン紛争による世界的なエネルギー価格の高騰を受け、国内市場のインフレ圧力を緩和し、企業活動と国民生活を保護するための緊急対応策として位置付けられている。
本稿では、この燃料税ゼロ措置の背景、ベトナム経済および企業に与える影響、そして中東の地政学的リスクがもたらす今後のエネルギー政策の展望について詳細に分析する。
1. 措置の背景:中東情勢の緊迫化とエネルギー価格の急騰
ベトナム政府が異例とも言える燃料税の全面免除に踏み切った最大の要因は、イランを中心とする中東地域の地政学的リスクの急激な高まりである。2026年初頭から続く中東での紛争激化により、世界の原油価格は高止まりを続けており、輸入燃料に大きく依存するベトナム経済にとって深刻な脅威となっている。
ベトナムは国内に製油所を持つものの、原油の大部分を輸入に頼っている。国際エネルギー市場の価格変動は、国内の物流コストや製造業の生産コストに直結する。特に、輸出主導型の経済成長を続けるベトナムにおいて、製造業と物流業の競争力維持は至上命題である。
これまでベトナム政府は、環境保護税の減免など段階的な燃料価格安定化策を講じてきたが、今回の危機的な状況を受けて、より強力な特別消費税0%という措置を決定した。これは、インフレ目標(2026年は4%)の達成を確実なものにするための政府の強い決意の表れである。
2. 燃料税ゼロ措置の具体的内容と財政への影響
今回の決議により、4月16日から6月30日までの約2ヶ月半にわたり、ガソリン、ディーゼル燃料、その他関連燃料に対する特別消費税が完全に免除される。財務省の試算によると、この措置による税収減は約15兆ドン(約6億ドル)に達すると見込まれている。
図1:ベトナムの月別燃料輸入コストと国内ガソリン小売価格の推移(2025年〜2026年予測)
図1が示すように、国際原油価格の上昇に伴い、ベトナムの燃料輸入コストは2026年に入ってから急激な上昇カーブを描いている。しかし、今回の税免除措置により、国内のガソリン小売価格は人為的に低く抑えられ、輸入コストとの乖離が広がることが予想される。
税収減という財政的な負担を負ってでも価格安定を優先する政府の姿勢は、マクロ経済の安定性を重視する現政権の基本方針に合致している。しかし、この措置が長引けば国家予算への圧力が高まるため、6月末という期限が設定されたと見られる。期限後の対応については、国際情勢の推移を見極めながら慎重に判断されるだろう。
3. 企業活動と国民生活への直接的影響
この燃料税免除措置は、ベトナム国内の様々なセクターに広範な影響を及ぼす。
物流・運輸業界への恩恵
最も直接的な恩恵を受けるのは物流・運輸業界である。燃料費は物流コストの約30〜40%を占めるため、価格の安定は利益率の維持に直結する。特に、EC(電子商取引)の拡大により急成長しているラストマイル配送業者や、配車アプリのギグワーカーにとって、燃料価格の安定は死活問題である。
製造業と輸出競争力の維持
製造業にとっても、工場稼働のためのエネルギーコストや原材料の輸送コストが抑制されることは大きなプラスとなる。米国による関税引き上げの懸念やグローバルサプライチェーンの再編が進む中、ベトナムを生産拠点とする外資系企業(FDI)にとって、インフラ・エネルギーコストの安定は投資判断の重要な要素である。
インフレ抑制と消費マインドの保護
一般消費者にとっては、日々の交通費負担が軽減されるだけでなく、輸送コスト上昇に起因する生活必需品の価格転嫁(コストプッシュ・インフレ)が防がれる。これにより、消費マインドの冷え込みを回避し、内需主導の経済成長を支える効果が期待される。
4. 中長期的なエネルギー安全保障の課題
今回の措置はあくまで短期的なショック療法であり、ベトナムが抱える構造的なエネルギー問題の根本解決にはならない。中東の地政学的リスクは今後も継続する可能性が高く、ベトナムは中長期的なエネルギー安全保障戦略の再構築を迫られている。
第一に、再生可能エネルギーへの移行加速である。ベトナムは第8次国家電力開発計画(PDP8)において、風力や太陽光など再生可能エネルギーの比率を大幅に引き上げる目標を掲げている。化石燃料への依存度を下げることは、価格変動リスクを軽減する最も有効な手段である。
第二に、国内の製油能力の拡充と戦略的備蓄の強化である。既存のニソン製油所やズンクアット製油所の効率化に加え、国家的な石油備蓄体制を整備し、外部ショックに対する緩衝材(バッファー)を構築することが急務となっている。
まとめ:危機管理と構造改革のバランスが問われる局面
ベトナム国会による燃料税ゼロ措置の延長は、イラン紛争という外部ショックに対する迅速かつ果断な危機管理策として高く評価される。インフレを抑制し、企業競争力と国民生活を守るための不可欠な措置である。
しかし、財政負担を伴うこの措置は持続可能ではなく、6月末以降の出口戦略が次の焦点となる。ベトナム政府には、短期的な価格安定化を図りつつ、中長期的には再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上といった構造改革を同時に進める、高度な政策運営が求められている。
外資系企業や投資家は、ベトナム政府の危機対応能力を評価しつつも、今後のエネルギー政策の動向やインフレ指標の推移を注視していく必要があるだろう。
【参考資料】
- Reuters, "Vietnam extends fuel tax suspension until end June", 2026年4月12日
- VietnamPlus, "National Assembly adopts zero excise tax on petrol", 2026年4月11日
- 財務省(MOF)発表資料
(執筆:ベトナム・インサイト編集部)

