"ホーチミン市を中心とするベトナム南部重点経済圏の工業不動産市場は、過去10年間で驚異的な変貌を遂げました。総合不動産サービス大手Cushman & Wakefieldの最新の10年レビューレポートは、同市場が単なる面積の拡大から、高付加価値化・グリーン化を伴う「質的転換」のフェーズに入ったことを浮き..."
ベトナム南部工業不動産が「量から質」へ転換:過去10年で用地価格120%上昇、2036年に58,557haへ拡大
ホーチミン市を中心とするベトナム南部重点経済圏の工業不動産市場は、過去10年間で驚異的な変貌を遂げました。総合不動産サービス大手Cushman & Wakefieldの最新の10年レビューレポートは、同市場が単なる面積の拡大から、高付加価値化・グリーン化を伴う「質的転換」のフェーズに入ったことを浮き彫りにしています。
過去10年の劇的な成長軌跡
2016年から2026年にかけての10年間で、南部工業不動産市場の主要指標は劇的な上昇を記録しました。
工業団地の用地供給量は80.21%増加し、現在では161のプロジェクトが総面積36,400ヘクタールを提供しています。供給の拡大にもかかわらず需要はそれを上回り、用地の平均一次価格(開発業者からの直接賃借価格)は10年間で120.5%も上昇しました。これは年平均成長率(CAGR)に換算すると9.18%という高い水準です。

さらに顕著な成長を見せたのが、すぐに操業を開始できる「既製施設」の市場です。既製倉庫(RBW)の供給量は10年間で141%増、賃料は43.8%増(CAGR 5.3%)となりました。また、既製工場(RBF)の供給量も134%増加し、賃料は16.7%増(CAGR 2.2%)を記録しています。Eコマースの台頭とサプライチェーンの多様化が、これらの施設需要を強力に後押ししました。
テナント需要の質的変化
初期のベトナム工業団地は、繊維・アパレルや木材加工といった労働集約型産業が主なテナントでした。しかし現在、新規入居企業の顔ぶれは大きく様変わりしています。
ハイテク電子機器、半導体関連、精密機械、そして新エネルギー(EV部品やバッテリー)分野の多国籍企業が、南部市場の新たな主役となっています。これらの企業は、単なる広大な土地や安価な労働力だけでなく、安定した電力供給、高度な廃水処理施設、そしてESG(環境・社会・ガバナンス)基準を満たす「グリーンインフラ」を求めています。
エコ・インダストリアルパークへの進化
テナントの要求水準の高度化に応えるため、開発業者側も戦略の転換を迫られています。従来の区画割りして貸し出すだけのモデルから、再生可能エネルギー(屋上太陽光発電など)の導入、資源の循環利用、労働者のための充実したアメニティ施設を備えた「エコ・インダストリアルパーク(生態系工業団地)」へのアップグレードが進んでいます。
政府もこの動きを後押ししており、環境基準を満たした工業団地開発に対して優遇措置を設けるなど、持続可能な産業インフラの構築を急いでいます。
今後の展望:2036年に向けたマスタープラン
ベトナム政府の最新のマスタープランによると、南部重点経済圏の工業団地総面積は、現在の36,400ヘクタールから2036年までに58,557ヘクタールへとさらに拡大する予定です。
今後の開発の焦点は、ホーチミン市に隣接するビンズオン省やドンナイ省といった伝統的な工業ハブから、土地に余裕がありインフラ整備が急ピッチで進むバリア・ブンタウ省やロンアン省、さらにはメコンデルタ方面へと広がりを見せています。
ベトナム南部の工業不動産市場は、価格上昇という課題に直面しつつも、それを補って余りあるインフラの質的向上とビジネス環境の洗練化によって、東南アジアにおける「プレミアムな製造・物流ハブ」としての地位を確固たるものにしつつあります。



