"長らく世界の半導体サプライチェーンにおいて「組み立て・テスト(OSAT)」の拠点として位置づけられてきたベトナムですが、2026年に入り、設計から製造に至るバリューチェーン全体の自立化に向けた動きが本格化しています。外資誘致に依存する段階から、国内の巨大テクノロジー企業が主導する新たなフェーズへと移..."
ベトナム半導体産業自立化が本格始動:Viettel初の製造工場、FPTパッケージング工場、HCMCハブ構想
長らく世界の半導体サプライチェーンにおいて「組み立て・テスト(OSAT)」の拠点として位置づけられてきたベトナムですが、2026年に入り、設計から製造に至るバリューチェーン全体の自立化に向けた動きが本格化しています。外資誘致に依存する段階から、国内の巨大テクノロジー企業が主導する新たなフェーズへと移行しつつあります。
国内企業主導の製造拠点整備
これまでベトナムの半導体産業は、IntelやAmkorなどの外資系企業による後工程(OSAT)が中心でした。しかし、その構図を大きく変える動きが起きています。
ベトナム軍隊通信グループ(Viettel)は、ハノイ郊外のホアラック・ハイテクパークにおいて、27ヘクタールの敷地面積を誇る国内初の半導体製造工場(ファウンドリ)の建設を開始しました。この施設は、通信機器やIoTデバイス向けの特殊チップ製造を念頭に置いており、国家安全保障と経済的自立の両面で極めて重要なプロジェクトと位置づけられています。
同時に、IT最大手のFPTコーポレーションも、先端チップのパッケージングおよびテストを行う新工場を開設しました。FPTはすでにチップ設計部門(FPT Semiconductor)を立ち上げており、今回の工場開設により、設計からテストまでの一貫したサービス提供能力を確立することになります。

ホーチミン市の「半導体ハブ」構想
南部経済の中心地であるホーチミン市(HCMC)も、半導体産業のハブ化に向けた野心的な計画を推進しています。同市は現在、AMD、NVIDIA、Qualcommといった世界のトップ半導体企業との間で、R&Dセンターの設立やAI・半導体人材の育成に関する提携を模索しています。
さらに、HCMCのサイゴン・ハイテクパーク(SHTP)は、敷地を拡張して巨大な「半導体工業コンプレックス」を形成する計画を発表しました。2026年中には、新たに4件以上の大規模な外資系半導体プロジェクトを誘致する目標を掲げており、インフラ整備と投資優遇策のパッケージ化を進めています。
人材育成とエコシステムの構築
半導体産業の発展において最大の課題となるのが高度人材の確保です。ベトナム政府は「2030年までに5万人の半導体エンジニアを育成する」という国家目標を掲げており、現在約7,000人とされるエンジニア数の大幅な拡充を急いでいます。
国家イノベーションセンター(NIC)を中心に、国内外の大学やテクノロジー企業が連携したトレーニングプログラムが全国で立ち上がっています。特にIC設計分野では、すでに50社以上の外資系設計企業が進出しており、ベトナム人エンジニアの設計能力は国際的にも高い評価を得つつあります。
今後の展望:バリューチェーンの高度化へ
現在、ベトナムには170以上の外資系半導体関連プロジェクトが存在していますが、ViettelやFPTの動きは、ベトナムが単なる「世界の工場」から脱却し、自前の技術力と製造能力を持つプレイヤーへと進化しようとする強い意志を示しています。
米中対立を背景としたサプライチェーンの再構築が続く中、ベトナムは地政学的な中立性を武器に、欧米企業とアジア企業の双方から投資を引き付けています。設計(川上)、製造(川中)、パッケージング・テスト(川下)というバリューチェーン全体を国内で完結させる「自立化」への道のりは険しいものの、2026年はその実現に向けた確かな一歩を踏み出した年として記憶されることになるでしょう。



