"2026年4月12日、ベトナム商工省(MoIT)は、中国から輸入される一部の熱延鋼板(HRC)に対し、最大27.83%の暫定的なアンチダンピング(不当廉売)関税を課すことを決定した。この措置は2026年4月17日から発効する。対象となるのは、幅1880mmから2300mmの広幅HRC製品であり、国..."
ベトナムが中国産熱延鋼板に27.83%のアンチダンピング関税を発動:国内鉄鋼産業保護の新局面
2026年4月12日、ベトナム商工省(MoIT)は、中国から輸入される一部の熱延鋼板(HRC)に対し、最大27.83%の暫定的なアンチダンピング(不当廉売)関税を課すことを決定した。この措置は2026年4月17日から発効する。対象となるのは、幅1880mmから2300mmの広幅HRC製品であり、国内の鉄鋼メーカーを安価な輸入品の脅威から保護するための強力な防衛策となる。
本稿では、今回のアンチダンピング関税発動の背景、対象製品と税率の詳細、そしてベトナムの鉄鋼産業および関連する製造業への影響について分析する。
1. 措置の背景:中国産鋼材の流入と国内産業の危機感
ベトナムが中国産HRCに対して厳しい関税措置に踏み切った背景には、国内の鉄鋼市場における深刻な供給過剰と価格下落の圧力がある。中国の不動産市場の低迷に伴い、行き場を失った中国産鋼材が東南アジア市場、特に地理的に近く需要が旺盛なベトナムに大量に流入していた。
Hoa Phat GroupやFormosa Ha Tinh Steelといったベトナムの主要鉄鋼メーカーは、安価な中国製品との価格競争に苦しみ、利益率の悪化や工場稼働率の低下に直面していた。これらの企業は以前から商工省に対し、中国製品のダンピングが国内産業に重大な損害を与えているとして調査を求めており、今回の措置はその訴えが認められた形となる。
ベトナム政府としても、基幹産業である鉄鋼業の衰退は雇用や経済安全保障の観点から看過できず、国内産業の保護を優先する決断を下した。
2. アンチダンピング関税の具体的内容
商工省の決定によると、今回の暫定アンチダンピング関税の対象と税率は以下の通りである。
- 対象製品: 幅1880mm〜2300mm、厚さ1.5mm〜25.4mmの合金および非合金の熱延鋼板(HRC)
- 適用期間: 2026年4月17日から120日間(その後、最終的な関税率が決定される見込み)
- 関税率: 中国の製造業者ごとに異なり、**22.45%から最大27.83%**の範囲で適用される。
図3:ベトナムのHRC輸入量に占める中国産の割合(2023年〜2026年第1四半期)
図3が示すように、ベトナムのHRC輸入における中国産のシェアは近年急増しており、2025年には全体の70%を超える水準に達していた。今回の高率な関税は、この輸入構造に大きな変化をもたらすことが確実視されている。
3. 国内鉄鋼メーカーへの恩恵と製造業への影響
この措置は、ベトナム国内の市場関係者に相反する影響を与える。
国内鉄鋼メーカーの競争力回復
Hoa Phat Groupなどの国内HRC生産企業にとっては、最大の懸念であった安価な輸入品の脅威が和らぎ、国内シェアの回復と製品価格の適正化が期待できる。これにより、工場の稼働率が向上し、収益性の改善が見込まれる。長期的には、国内での設備投資や新技術導入への意欲を高める効果もあるだろう。
川下産業(製造業・建設業)へのコスト圧力
一方で、HRCを原材料として使用する川下の製造業(自動車部品、家電、機械など)や建設業界にとっては、調達コストの上昇という負の側面がある。これまで安価な中国産HRCを利用して競争力を維持していた企業は、調達先の変更(日本、韓国、インドなどへの切り替え)や、値上がりした国内産HRCの購入を余儀なくされる。
特に、輸出向けの製品を製造している外資系企業にとっては、原材料コストの上昇がグローバル市場での価格競争力低下に直結する恐れがあるため、サプライチェーンの見直しが急務となる。
4. グローバルな鉄鋼貿易摩擦の中のベトナム
ベトナムの今回の措置は、世界的な鉄鋼貿易摩擦の文脈に位置付けることができる。米国やEU、そして他の中南米・アジア諸国も、中国の過剰生産能力に対する警戒感を強め、相次いで保護貿易的な措置を講じている。
ベトナムはこれまで、自由貿易協定(FTA)を積極的に結び、開かれた市場を志向してきたが、基幹産業の保護に関しては断固たる態度を示す方針を明確にした。これは、単なる保護主義ではなく、公正な競争環境(レベル・プレイング・フィールド)を確保するための正当な貿易救済措置であると政府は主張している。
今後、中国側がこの措置に対してWTO(世界貿易機関)への提訴などの対抗措置に出る可能性もあり、両国間の通商協議の行方が注視される。
まとめ:国内産業保護とサプライチェーン再編の波
中国産熱延鋼板に対する最大27.83%のアンチダンピング関税の発動は、ベトナムの鉄鋼産業にとって待望の救済策であると同時に、国内の製造業全体にサプライチェーンの再考を迫る転換点となる。
日系企業をはじめとする外資系製造業は、原材料の調達コスト上昇リスクを正確に見積もり、調達先の多角化や高付加価値製品へのシフトなど、柔軟な対応策を講じる必要がある。また、ベトナム政府の通商政策が、国内産業の保護と外国投資の誘致という二つの目標の間でどのようにバランスを取っていくのか、引き続き警戒を持って見守るべきである。
【参考資料】
- Kitco News, "Vietnam to impose anti-dumping tariff on Chinese steel", 2026年4月12日
- Yieh Corp Steel News, 2026年4月11日
- ベトナム商工省(MoIT)決定第888/QD-BCT号
(執筆:ベトナム・インサイト編集部)




