Vingroup傘下VinMetalがPrimetalsとグリーンスチール複合施設を建設:中部ベトナムで脱炭素製鉄を推進
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ニュース 2026年5月12日 3分で読めます

Vingroup傘下VinMetalがPrimetalsとグリーンスチール複合施設を建設:中部ベトナムで脱炭素製鉄を推進

"Vingroup傘下のVinMetalがオーストリアの製鉄技術大手Primetals Technologiesと提携し、中部ベトナム・ハティン省のVung Ang経済区に年間200万トンのグリーンスチール複合施設を建設する計画が発表された。約30億ドルの初期投資を投じ、水素還元製鉄技術を用いてCO2..."

Vingroup傘下のVinMetalがオーストリアの製鉄技術大手Primetals Technologiesと提携し、中部ベトナム・ハティン省のVung Ang経済区に年間200万トンのグリーンスチール複合施設を建設する計画が発表された。約30億ドルの初期投資を投じ、水素還元製鉄技術を用いてCO2排出量を従来の高炉製鉄に比べ70〜80%削減することを目指す。2029年の完成を見込み、自動車や建設業向けの国内需要に加え、欧米向け脱炭素サプライチェーンに対応する狙いも明確だ。

背景・経緯の詳細な解説

Data Chart - Vingroup傘下VinMetalがPrimetalsとグリーンスチール複合施設を建設:中部ベトナムで脱炭素製鉄を推進
Source: Vietnam Insight Analysis

ベトナムは過去20年間にわたり年平均6~7%の経済成長を遂げ、製造業や建設業の急速な発展に伴い、エネルギー消費量と温室効果ガスの排出量が飛躍的に増加している。特に鉄鋼業はGDPに占める割合は約5%とそれほど大きくはないものの、国内の製造業にとって欠かせない基幹産業であり、そのCO2排出量が国内排出総量の約10%を占める重厚長大産業の中核である。国際社会からの脱炭素への圧力が強まる中、ベトナム政府は2021年に「2050年カーボンニュートラル実現」目標を掲げ、製造業を含む産業界に対して具体的な温室効果ガス削減のロードマップを示した。これにより、特にエネルギー集約型産業における脱炭素技術の導入が急務となっている。

こうした状況下で、ベトナム最大の民間企業グループであるVingroupは、これまで主力の自動車事業(VinFast)や不動産(Vinhomes)での成功を背景に、製鉄分野へも積極的に進出を図っている。子会社のVinMetalは、これまで国内向けの低炭素化ニーズに対応しつつも、技術的な限界や設備の老朽化が課題となっていた。今回の提携先であるPrimetals Technologiesは、オーストリアに本拠を置く製鉄設備・技術のグローバルリーダーであり、世界の製鉄大手と共同で次世代のグリーンスチール技術開発を推進している。ベトナム国内でも既存の製鉄プラントに対する技術支援を行ってきた実績があり、今回の提携は両者の強みを融合させる形で、先端の水素還元製鉄技術を導入し、国内製鉄業の脱炭素化と国際競争力の強化を目指すものだ。

さらに、EUが2023年より導入を開始したCBAM(炭素国境調整メカニズム)は、輸出製品の炭素排出量に応じて課税を行う制度であり、ベトナムの鉄鋼製品の欧州市場での価格競争力に直接的な影響を及ぼす。これにより、輸出向け製品の脱炭素化は急務となっている。今回のグリーンスチールプロジェクトは、こうした国際環境規制に対応しつつ、グローバルサプライチェーンの「グリーン化」を図る重要な一歩となる。

具体的な内容・数値データとその分析

今回建設される複合施設は、DRI(直接還元鉄)技術とEAF(電気炉)を組み合わせた製鉄プロセスを採用する。DRIは鉄鉱石を直接還元してスポンジアイアンを製造し、EAFで溶解・精錬を行う方式であり、従来の高炉製鉄と比較してCO2排出量を大幅に削減できる。年間200万トンという生産能力は、ベトナムの製鉄業界においては最大級の規模であり、初期フェーズの投資規模約30億ドルは、国内の製鉄関連投資としては過去最大クラスに位置付けられる。

水素還元製鉄技術は、鉄鉱石還元の際に従来のコークスや石炭の代わりに水素ガスを還元剤として使用する。これにより、還元反応の副産物がCO2ではなく水蒸気となるため、二酸化炭素排出量は従来の高炉製鉄に比べて70〜80%削減される。水素は再生可能エネルギー由来の電力を使って製造されるグリーン水素が用いられる予定であり、これが環境負荷低減の鍵を握る。例えば、ベトナムの再生可能エネルギー潜在力は大きく、特に太陽光や風力発電の導入が進んでいる。2023年時点で、国内の再エネ発電容量は約17GWに達し、2030年までに50GW以上の拡大が見込まれている。これにより、グリーンスチールの製造に必要な大量のグリーン水素の安定供給が可能となる環境が徐々に整備されてきている。

原料面では、ベトナム国内の鉄鉱石資源は非常に限られているため、主にオーストラリアやブラジル、南アフリカなどからの輸入に依存する。これらの地域は世界的に鉄鉱石の主要供給地であり、高品質の鉱石を安定的に調達することが、製鉄事業の競争力維持に不可欠だ。実際、世界の鉄鉱石価格は2022年以降のサプライチェーン混乱、地政学的緊張を背景に大きく変動しており、価格の安定化と長期契約の確保がプロジェクト成功の鍵となる。

完成予定は2029年で、初期フェーズでは約5,000人の直接雇用が見込まれている。加えて、関連するサプライチェーンやサービス業を含めると、数万人規模の間接雇用効果が期待される。VinFastの自動車製造やVinhomesの建築資材需要をはじめ、国内市場における鉄鋼需要の安定的な取り込みに加え、欧米市場向けの輸出製品の脱炭素対応も視野に入れている。欧州向け輸出は、CBAM導入により脱炭素製品でなければ競争力を維持できないことから、グリーンスチールの生産能力が拡大すれば、ベトナムの製鉄業の国際的なプレゼンス向上に直結する。

専門家・関係者の見解

製鉄業界の専門家は、本プロジェクトがベトナムの製鉄業脱炭素化における重要なマイルストーンになると高く評価している。世界的に水素還元製鉄技術は注目されているものの、実用規模での導入例はまだ限られており、VinMetalとPrimetalsの協業は、技術面だけでなく資金調達やサプライチェーン構築においても先進的な取り組みとされる。

また、ベトナム政府の環境政策に沿った企業の模範的な対応としても注目されている。脱炭素技術の導入は初期投資や運用コストの増加を伴うが、長期的には欧州市場を中心とした国際市場での競争力維持に不可欠であり、今回のプロジェクトはその先駆けとなる。特に、CBAMなどの国際的な炭素規制が強化される中、早期の技術導入はリスク軽減にもつながる。

一方で、水素製造の安定供給、再生可能エネルギーの拡充、鉄鉱石の安定輸入という課題は依然として大きい。ベトナムの電力インフラは急速に整備されつつあるものの、グリーン水素製造に必要な大量電力の確保と送電網の強化が急務である。また、鉄鉱石価格の国際的な変動、輸送コストの高騰、さらには地政学的リスクもプロジェクトの経済性に影響を及ぼす。

日本企業にとっての意味

今回のプロジェクトは、日本の製鉄大手であるJFEスチールや日本製鉄(旧新日鐵住金)にとっても重要な意味を持つ。両社はこれまで高炉製鉄技術をベースに事業を展開しつつ、脱炭素技術の開発・導入にも力を入れてきた。例えば、日本製鉄は2023年に水素還元鉄の商用化を目指すプロジェクトを開始し、JFEスチールも脱炭素技術の研究開発に多額の投資を行っている。しかし、商用規模での水素還元製鉄の先行導入では欧州勢がリードしており、Primetalsとの協業はその象徴的な事例といえる。

日本企業にとっては、VinMetalとPrimetalsの協業が示すベトナム市場での脱炭素技術導入の動きを注視しつつ、協業や技術交流の機会を模索することが不可欠だ。特に、エネルギー効率化技術や水素製造・供給インフラの開発、さらには製鉄プロセス全体の最適化に関するノウハウ共有は、双方にとって大きな利益をもたらす可能性がある。

加えて、CBAM対応を含む国際的な脱炭素規制に適応するためには、日本企業も製品の環境性能向上が不可欠であり、ベトナムでのグリーンスチール生産は今後のグローバルサプライチェーン構築に新たな選択肢を提供することになる。例えば、トヨタ自動車やホンダなど日本の自動車メーカーは、現地調達の鉄鋼製品の脱炭素化を通じて、サプライチェーン全体のカーボンフットプリント削減に貢献できる可能性がある。

また、日本の投資家にとっても、ベトナムの製鉄業の脱炭素化に向けた大規模プロジェクトは、成長市場としてのベトナムの魅力を再確認させる動きである。近年、ESG投資の潮流は強まり、環境負荷低減に資する企業およびプロジェクトへの資金流入が加速している。今回のグリーンスチール施設は、環境・社会・ガバナンス(ESG)観点からも投資価値が高く、長期的に安定したリターンを見込めるとして注目されている。

業界動向・マクロ経済背景の補足

世界の製鉄業は脱炭素化の潮流の中で大きな変革期を迎えている。国際エネルギー機関(IEA)によると、2050年までに製鉄業のCO2排出量を実質ゼロにするには、現状の高炉製鉄から水素還元製鉄や電気炉利用への急速なシフトが不可欠だ。欧州や北米の製鉄大手はすでに大規模な水素還元製鉄プラントの建設計画を発表しており、アジアでも中国や韓国での技術開発が進む。

一方、ベトナムは世界的に見ればまだ中小規模の製鉄国であるが、経済成長に伴う需要増加と国際的な環境規制の両面から、早期の技術革新が求められている。ベトナム政府は2020年代後半から再生可能エネルギーの急拡大を政策の柱に据え、製造業の脱炭素化支援策も強化中だ。こうした政策環境は、今回のグリーンスチールプロジェクトにとって追い風となっている。

マクロ経済面では、世界的なインフレ圧力や原材料価格の変動、地政学リスクの高まりが製鉄業のコスト構造に影響を及ぼしている。特に鉄鉱石や水素の価格は今後も不安定要因が大きい。ベトナムは輸入依存度が高いため、これらのリスク管理がプロジェクトの収益性確保に直結する。

今後の展望・リスク要因

グリーンスチール複合施設の建設と稼働は、ベトナム製鉄産業に新たな競争軸を提供することになる。2030年代以降、世界的な脱炭素技術の普及とともに、国内外の環境規制は一層厳格化し、市場の脱炭素要求も高まる見通しだ。これにより、グリーンスチール製品の需要は拡大し、ベトナムの製鉄業界は国際市場でのポジション強化が期待される。

しかし、複数のリスク要因が存在する。まず、水素製造に必要な再生可能エネルギーの安定的な確保は、ベトナム国内の電力インフラ整備状況と密接に関連する。再エネの導入は進む一方で、送電網の制約や季節変動による供給不安定性が課題だ。これを解決するためには、蓄電技術の導入や電力市場の自由化促進が必要である。

資材価格の国際的な変動も大きなリスクである。鉄鉱石価格は政治的要因や供給網の変動で大きく動くため、長期契約の締結や価格ヘッジ戦略が不可欠だ。物流面では、世界的なコンテナ不足や港湾の混雑、運送コストの高騰がプロジェクトのコストを押し上げる可能性がある。

技術面では、水素還元製鉄の商用化に伴う運用リスクが存在する。新技術の導入は初期段階でのトラブルや生産効率の低下を招くこともあり、安定稼働までの時間とコストがかかる可能性がある。また、技術移転や人材育成も大きな課題である。約5,000人の雇用創出は期待されるが、高度な製鉄技術と環境管理能力を持つ人材の確保は容易ではない。国内の技術教育機関や職業訓練の強化が求められている。

さらに、国際的な政治・経済情勢の変動も無視できない。EUのCBAM制度の運用実態や米中関係の緊張、ロシア・ウクライナ情勢の影響など、外部環境の変化がプロジェクトのビジネスモデルに直接的な影響を及ぼす可能性がある。これらのリスクを見据えた柔軟な経営戦略の構築が重要だ。

結論

VinMetalとPrimetals Technologiesによるグリーンスチール複合施設建設は、ベトナムの製鉄業における脱炭素化の先駆けとなる大規模プロジェクトである。約30億ドルの投資で2029年の完成を目指し、水素還元製鉄技術の導入によりCO2排出量を従来比で大幅に削減する。この動きは、ベトナム政府が掲げる2050年カーボンニュートラル目標やEUのCBAM対応といった国際的な環境規制の潮流に合致し、国内外の市場における競争力強化に大きく寄与する。

日本企業にとっては、ベトナム市場での製鉄技術競争の激化とともに、新たな協業や投資の機会を探る契機となる。今後の技術開発、エネルギーインフラ整備、人材育成の進展に注目が集まる中、脱炭素化と経済成長の両立を目指すベトナムの製鉄業界の動向は、アジア太平洋地域の産業構造変革の重要な一端を担うだろう。

同時に、安定的な水素供給や再生可能エネルギーの拡充、資材調達のリスク管理、運用面の技術的課題を克服することが、プロジェクト成功の鍵である。これらの課題に対しては、官民が連携した包括的な支援策の策定と実行が求められる。グリーンスチールの普及はベトナムのみならず、東南アジア地域全体の製鉄産業の脱炭素化のモデルケースとなり得るため、今後の動向は国内外の産業界から大きな注目を集めることになるだろう。

出典: The Investor

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