"ベトナムで事業を展開する企業にとって、知的財産権(IP)の保護は極めて重要な経営課題である。特に商標登録は、ブランド価値を守り、模倣品や不正使用から自社の権利を守るための基本的な手段となる。本ガイドでは、ベトナムにおける商標登録の手続き、2026年4月に施行される知的財産法改正の内容、そして実務上の注意点について詳しく解説する。 ## ベトナムの商標登録制度の基本 ベトナムは先願主義(firs..."
ベトナムで事業を展開する企業にとって、知的財産権(IP)の保護は極めて重要な経営課題である。特に商標登録は、ブランド価値を守り、模倣品や不正使用から自社の権利を守るための基本的な手段となる。本ガイドでは、ベトナムにおける商標登録の手続き、2026年4月に施行される知的財産法改正の内容、そして実務上の注意点について詳しく解説する。
ベトナムの商標登録制度の基本
ベトナムは先願主義(first-to-file system)を採用しており、同一または類似の商標について複数の出願がある場合、最も早い出願日を持つ申請者に商標権が付与される。これは、実際に商標を使用しているかどうかに関わらず、先に出願した者が権利を取得できることを意味する。したがって、ベトナムで事業を開始する際には、できるだけ早期に商標登録を行うことが推奨される。
商標登録の管轄機関はベトナム知的財産庁(IPVN)であり、登録された商標の有効期間は10年間である。有効期間満了後は更新が可能であり、更新回数に制限はない。商標として登録可能な対象には、ロゴ、文字、パッケージデザインなど、視覚的に表現可能なものが含まれる。
商標登録に必要な書類と要件
商標登録申請を行う際には、以下の書類を準備する必要がある。第一に、委任状(Power of Attorney)が必要である。外国企業の場合、現地のIP代理人または弁護士を通じて申請する必要があるため、この委任状は必須となる。第二に、国章、旗、紋章などの特別な標章を使用する場合は、その使用許可証明が必要である。第三に、登録権の証明、譲渡された登録権の証明、優先権の証明などが該当する場合に提出が求められる。
申請要件については、いくつかの重要なルールがある。まず、1つの申請につき1つの保護対象のみを申請できる。例えば、マクドナルドの場合、ゴールデンアーチと「ビッグマック」という文字商標は別々に申請する必要がある。すべての書類はベトナム語で提出しなければならず、縦向き(portrait format)で提出することが求められる。また、所定のフォームを使用し、アラビア数字でページ番号を付け、タイプライターまたは印刷(消えないインク使用)で作成する必要がある。電子データ(USB、CD)の添付も可能である。
申請方法:紙ベースとオンライン
商標登録の申請方法には、紙ベース申請とオンライン申請の2つがある。紙ベース申請の場合、IPVN事務所に直接または郵送で申請書類を提出する。申請費用は郵便サービスを通じて送金し、領収書を申請書類に添付する必要がある。
オンライン申請の場合、デジタル証明書、デジタル署名、そしてIPVNのオンライン申請受付システムへの登録アカウントが必要となる。申請者はオンラインで申請フォームに記入し、それを印刷してIPVN事務所に提出し、必要書類を添付して費用を支払うと、申請番号が発行される。
マドリッド制度による国際登録
ベトナムで登録された商標は、マドリッド制度を通じて国際登録を申請することができる。マドリッド制度は、世界知的所有権機関(WIPO)が管理する国際的な商標登録システムであり、複数の国での商標保護を一括して申請できる仕組みである。
マドリッド制度を利用する場合、申請は英語またはフランス語で提出する必要がある。申請者は書面による宣言と国際商標登録申請書を提出し、すべての手続きはIPVNを通じて行う。費用もIPVNに直接支払い、IPVNがWIPOに転送する。この手続きは、完全かつ有効な申請書類を受領してから30日以内に完了する必要がある。
商標拒絶の理由と対応策
商標登録申請が拒絶される主な理由は2つある。第一に、識別性の欠如である。商標が商品やサービスの出所を区別する機能を果たせない場合、識別性が欠如しているとみなされる。ベトナム法で禁止されている要素を含む商標の場合、この拒絶を覆すことはできない。しかし、禁止されていない場合は、商標が識別性を持つことを証明する論拠と証拠を提出することで対応できる。
第二に、既存商標との類似性である。先行登録商標と同一または類似しており、混同の恐れがある場合、申請は拒絶される。この場合、申請者は拒絶された商標が先行商標と異なり、混同の恐れがないことを証明する必要がある。
拒絶への対応策としては、以下の方法がある。まず、同意書(LOC: Letter of Consent)の提出である。これは、先行商標権者が、申請された商標が自身の権利を侵害しないことを明示的に確認する書面である。次に、商標申請の分割である。特定の商品やサービスについてのみ拒絶された場合、申請を分割して対応できる。最後に、拒絶された商品やサービスを申請から削除する方法もある。
2026年4月施行の知的財産法改正
2025年12月、ベトナム国会は知的財産法の大規模な改正を可決し、2026年4月1日に施行される。この改正は、デジタル経済への対応強化、審査迅速化、そしてIPの資産化を主な目的としている。
主な改正内容は以下の通りである。第一に、AI生成物・AI学習の取扱いが明確化される。第二に、IPの資産化(評価・取引・担保)に関する規定が整備される。第三に、審査迅速化が図られ、商標の実質審査は5ヶ月以内に完了することが目標とされる。第四に、特許および商標出願については、出願公告日から3ヶ月以内に、出願人が実体審査の迅速化を請求できるようになる。
この改正により、商標登録のスピードが大幅に向上することが期待される。従来、商標審査には長期間を要していたが、5ヶ月以内という明確な目標が設定されたことで、企業はより迅速に商標権を取得できるようになる。
外国企業の注意点
外国企業もベトナムで商標登録を行うことができるが、いくつかの重要な注意点がある。最も重要なのは、外国企業は直接申請することができず、必ず現地のIP代理人または弁護士を通じて申請しなければならないという点である。これは、ベトナムの法制度や言語の壁を考慮した規定であり、専門家のサポートを受けることで、申請の成功率を高めることができる。
また、ベトナムで事業を開始する前に商標登録を完了させることが強く推奨される。先願主義のため、他者が先に同一または類似の商標を登録してしまうと、自社のブランドを使用できなくなるリスクがある。特に、中国や他の東南アジア諸国で事業を展開している企業は、ベトナムでも早期に商標登録を行うべきである。
まとめ
ベトナムにおける商標登録は、ブランド価値を守り、事業を成功させるための重要なステップである。先願主義の採用、2026年4月の知的財産法改正による審査迅速化、そしてマドリッド制度を通じた国際保護の可能性など、ベトナムの商標登録制度は企業にとって有利な環境を提供している。外国企業は、現地の専門家と協力しながら、早期に商標登録を完了させることで、ベトナム市場での競争優位性を確保できるだろう。



