"2025年に過去最高の78億ドルを記録したベトナムのM&A市場。本記事では、株式取得や資産取得といった主要手法から、外資規制、デューデリジェンスの重要性、許認可手続きまで、2026年現在のベトナムにおけるM&Aの実務的なポイントを解説する。"
経済成長と市場開放を背景に、ベトナムは東南アジアで最も魅力的なM&A(合併・買収)市場の一つとなっている。2025年のM&A取引総額は78億ドルに達し、過去最高を記録。不動産、金融、製造業、ITなど多様なセクターで活発な取引が行われている。本記事では、2026年現在のベトナムにおけるM&Aの実務的なポイントを解説する。

2023年に一時的な落ち込みを見せたものの、市場は再び力強い成長軌道に戻っている。
1. M&Aの主要な手法
ベトナムにおけるM&Aは、主に以下の手法で行われる。
- 株式取得(Share Acquisition): 最も一般的な手法。対象会社の株主から株式を買い取る。非公開会社の場合、株主の合意形成が重要となる。
- 資産取得(Asset Acquisition): 特定の事業や資産のみを買い取る手法。不要な負債を引き継ぐリスクを避けられるが、許認可の再取得など手続きが煩雑になる場合がある。
- 合併(Merger): 複数の会社が統合して一つの会社になる手法。法的手続きが複雑なため、実務上は株式取得が選ばれることが多い。
2. 外資規制と市場参入
ベトナムはWTO加盟国として市場開放を進めているが、一部の業種では依然として外資出資比率に上限(Foreign Ownership Limit, FOL)が設けられている。例えば、銀行業は30%、広告サービス業は99.99%など。M&Aを検討する際は、まず対象企業の事業内容が条件付き投資分野に該当するか、FOLの対象かを確認することが不可欠だ。
3. デューデリジェンス(DD)の重要性
ベトナムでのM&A成功の鍵は、徹底したデューデリジェンスにある。特に以下の点に注意が必要だ。
- 法務DD: 土地使用権、各種ライセンスの有効性、労働関連のコンプライアンス、潜在的な訴訟リスクなどを精査する。特に土地関連の権利関係は複雑なケースが多く、専門家による詳細な調査が必須。
- 財務DD: 会計基準の違いや不透明な取引の存在を念頭に置き、財務諸表の信頼性を慎重に評価する。未払いの税金や社会保険料なども重要なチェックポイント。
- 税務DD: 移転価格税制や過去の税務調査での指摘事項など、将来的な税務リスクを洗い出す。
4. 許認可手続き
M&Aの実行には、複数の許認可が必要となる。
- 投資登録証明書(IRC)/企業登録証明書(ERC)の変更: 外国人投資家が株式を取得する場合、これらの証明書の変更手続きが必要。
- M&A承認申請: 一定規模以上のM&A(経済集中に該当する場合)では、競争当局(VCCA)への届出と承認が必要となる。
- その他: 対象企業の事業内容に応じて、関連省庁からの個別承認が必要な場合がある。
5. 成功のためのポイント
- 信頼できる現地パートナー: 法務、財務、税務に精通した現地の専門家(弁護士、会計士)との連携が不可欠。
- 文化的な差異への理解: 交渉の進め方や意思決定プロセスなど、ベトナムのビジネス文化への理解と柔軟な対応が求められる。
- 十分な時間的余裕: ベトナムの許認可手続きは、想定以上に時間がかかることが多い。余裕を持ったスケジュールを組むことが重要。
ベトナムのM&A市場は、大きなポテンシャルを秘めているが、同時に特有のリスクも存在する。成功を収めるためには、これらの実務的なポイントを十分に理解し、慎重かつ戦略的にプロセスを進めることが求められる。



