"ハノイでは新規供給が回復しているが、価格はなお高止まりし、ホーチミン市では高金利が購買力を圧迫している。ベトナム不動産市場は量的回復よりも、実需・長期保有・資金力重視の選別局面に入った。"
1. 導入
ベトナムの不動産市場では、「供給が増えれば価格は下がる」という分かりやすい図式が通用しにくくなっている。ハノイでは新規物件の供給が戻ってきたのに、価格はむしろ高値圏で定着し、ホーチミン市では住宅ローン金利の上昇が購買力を大きく削っている。 いまの市場は活況というより、買い手と売り手の双方が条件を厳しく見極める選別相場だ。
2. ニュース詳細
VietnamNetによると、2026年第1四半期のハノイでは、30超のプロジェクトからアパート約5,300戸、戸建て164戸が供給された。供給回復は鮮明だが、一次市場価格は1平方メートル当たり9,440万ドンと前年同期比25.3%上昇している。Nhandanは、2025年の新規供給が過去5年で最高水準に達し、平均一次価格が約1億200万ドン/平方メートルとなったと報じた。2026年の新規アパート供給見通しは18,454戸だが、中心はGrade A・Bで、中価格帯やアフォーダブル住宅はなお不足している。
一方、Lao Dongによれば、ホーチミン市の2026年第1四半期市場では、住宅ローン金利が年10〜14%まで上昇し、流動性と購買力が急低下した。それでも高級マンションの一次価格は1平方メートル当たり4,148ドル、約1億900万ドン相当と高水準で、プロジェクトによっては販売期ごとに値上げも続く。北部市場では2026〜2030年に年平均23,000戸のアパート供給が想定されるが、建材価格の上昇と金融コストが価格調整を妨げている。
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| ハノイQ1供給 | 約5,300戸のアパート |
| ハノイ一次価格 | 9,440万ドン/㎡、前年比25.3%上昇 |
| HCMC住宅ローン金利 | 年10〜14% |
| ハノイ新規供給見通し | 2026年に18,454戸 |
3. 市場への影響分析
現在の市場は、供給不足だけでなく供給の偏りが価格を押し上げている。増えているのは主に高級・準高級であり、実需層が求める価格帯の住宅が十分に出ていない。さらに金利上昇、建材価格上昇、法規制対応コストが重なり、デベロッパーは大幅値下げに踏み切りにくい。そのため、買い手は「今すぐ買う」よりも、立地、賃貸需要、交通接続、将来の出口戦略を比較して慎重に動くようになった。
この変化は周辺市場にも影響する。住宅販売の回転が鈍れば、仲介、内装、家具、住宅金融、建設資材の動きも選別色が強まる。逆に、郊外メガプロジェクトや新橋・環状道路沿線では、中長期の都市拡張期待を背景に需要が先回りしやすい。つまりベトナム不動産市場は全体一律で見るより、資金調達環境とインフラ接続性に応じて価格の粘着性が異なる市場へ変わっている。
4. メディアの見解
Vietnam Insight Researchは、現在の不動産市場を「回復局面」よりも「価格の再定義局面」と評価する。供給が増えても価格が下がらないのは、需要が強いからだけではない。法的手続きの長期化、資材高、金利高、商品の高級化が重なり、従来より高い価格帯が新しい基準として市場に埋め込まれつつあるからだ。
日本企業が注目すべきは、住宅開発そのものの参入可否よりも、金利上昇と供給偏在の下で何が不足するかである。省エネ建材、管理運営、コミュニティ施設、賃貸運営、資産管理、都市データ分析、住宅ローン関連サービスなど、周辺領域の需要はむしろ拡大しやすい。高値定着は買い手にとって厳しいが、関連サービス企業には新しい市場を作る可能性がある。
5. 今後の展望
短期的には、金利が急低下しない限り、購買力の回復は限定的だろう。したがって、物件価格が大幅に下落するよりも、販売条件の柔軟化、支払猶予、利子補填といった実質的な値引き競争が続く可能性が高い。中長期では、ハノイ周辺省や郊外大型都市開発が住宅供給の逃げ道となり、インフラ連動型の開発が優勢になる。日本企業にとっては、住宅販売ブームを追うより、運営・管理・資材・スマートシティ支援に軸足を置くほうが現実的だ。



