"ベトナムにおけるM&A(合併・買収)市場の成長を支える新たな柱として、ベトナムM&A協会(VMAA:Vietnam Mergers & Acquisitions Association)が正式に設立された。2023年頃から1000日以上にわたる準備期間を経ての誕生であり、政府の企業再編や資本市場深化..."
ベトナムにおけるM&A(合併・買収)市場の成長を支える新たな柱として、ベトナムM&A協会(VMAA:Vietnam Mergers & Acquisitions Association)が正式に設立された。2023年頃から1000日以上にわたる準備期間を経ての誕生であり、政府の企業再編や資本市場深化政策を背景に、2025年のM&A市場は前年比26%増の367件、総額87億ドルに達した。今後、VMAAは市場の透明性向上や規制緩和提言を通じて、更なる市場拡大と質的向上を目指す。
背景・経緯

ベトナムは1990年代後半から急速な経済改革(ドイモイ政策)を推進し、それに伴い市場経済化を進めてきた。特に2000年代以降は経済成長率が年平均6~7%台を維持し、外資誘致と内需拡大が経済の牽引役となっている。こうした経済成長の中で、産業構造の高度化や企業の競争力強化が求められ、M&A市場の拡大が不可避となった。
近年のベトナム政府は、国有企業の民営化を国家戦略として積極的に推進している。2016年以降、国有資産の効率的な活用や企業の経営効率向上を目的に多くの国有企業が部分的あるいは全面的な民営化を進めている。これに伴い、国有企業の再編・統合を促すM&A案件が増加し、資本市場の深化と相まってM&Aの活発化を後押ししている。
さらに、ベトナムはASEAN経済共同体(AEC)への参加やEU-ベトナム自由貿易協定(EVFTA)などの国際的な経済連携協定を活用し、外資規制の緩和や投資環境の整備に注力している。これにより、外資系企業のベトナム参入障壁が低減し、M&A市場における外国投資家の存在感が増している。
こうした動きを受けて、M&Aに関する情報共有や業界全体の連携強化、規制改善の必要性が高まったことで、2023年頃からベトナムM&A協会(VMAA)の設立準備が始まった。約3年の準備期間を経て、国内外のM&A関連企業や専門家、政府機関が連携し、正式に設立された。VMAAは、政府と民間企業、専門家の橋渡し役として、法制度の改善や市場の透明性向上、専門家育成を推進し、ベトナムのM&A市場を次なる成長フェーズへと導くことを目指している。
具体的な内容・数値データ
2025年のベトナムM&A市場は、取引件数367件、総額87億ドルと前年から26%の増加を記録した。これはアジア新興市場の中でも高い伸び率であり、ベトナムが地域の投資ハブとしての地位を強めていることを示している。例えば、近隣のインドネシアやフィリピンのM&A市場成長率が平均15~20%程度であるのに対し、ベトナムの26%増は突出している。
取引件数の増加は、特に中小・中堅企業間の再編や新興産業分野での活発な投資活動によるものであり、市場の裾野が広がっていることを示す。総額87億ドルは、GDP比で約1.5%に相当し、経済規模に対しても高い水準に達している。
主要セクターは、不動産、製造業、金融、消費財、そしてテクノロジーの5分野に集中している。不動産セクターは、ホーチミン市やハノイを中心とした都市化の進展と国家インフラ整備計画の加速により、土地・開発案件が多数活発化している。2025年の不動産M&Aは市場全体の約30%を占め、取引総額の約35%を占める。
製造業は、ベトナムの工場誘致政策やサプライチェーンの再編に伴い、外資の増加と国内需要拡大が背景にある。特に電子部品や自動車関連の製造業が注目されており、製造業M&Aは前年対比で約28%増加している。
金融分野では、銀行や保険会社の再編・統合が進み、市場の集中度が高まっている。これにより、金融セクターのM&A件数は全体の15%を占め、総額では約20億ドルに達した。金融セクターの再編は、資本の効率的活用とリスク管理の強化を目的としている。
消費財およびテクノロジー分野は、デジタル化の進展と中間層の拡大により取引が増加している。特にEコマースやフィンテック、ヘルスケアテクノロジー分野のM&Aが目立ち、これらは全体の約20%を占めている。
外資系企業によるベトナム企業の買収や合弁設立も顕著に増えており、資本規制の緩和がその追い風となっている。2025年の外資系主導M&Aは全体の約40%を占め、その金額は約35億ドルに上る。特に日本企業は食品、小売、金融セクターを中心にM&Aを通じてベトナム市場への参入を強化している。日本からの直接投資(FDI)に占めるM&A比率は年々増加傾向にあり、2025年には約25%に達した。
2026年にはM&A市場規模が100億ドルを超えるとの見通しも立っており、さらなる市場拡大が期待されている。
専門家・関係者の見解
ベトナムM&A協会の設立について、現地の投資銀行関係者は「VMAAは情報の一元化と透明性の向上に貢献し、国内外の投資家が安心して取引できる環境を作る重要な役割を担う」と評価している。
また、ベトナム証券取引所の関係者は「M&A市場の発展は資本市場の成熟と連動しており、VMAAが規制改善や専門家育成に取り組むことで、より効率的かつ公正な市場環境が整うだろう」と期待を寄せる。
一方、外資系コンサルタントは「ベトナムのM&A市場はまだ発展途上だが、法制度の整備や情報開示の改善が急務。VMAAの活動がこれらの課題解決に寄与し、長期的な成長基盤を築くことが期待される」と指摘する。特に、透明性の不足や契約執行の問題、デューデリジェンスの質のばらつきが現状の課題として挙げられている。
また、専門家はVMAAによる人材育成プログラムや国際基準の導入促進により、M&Aに関わる専門家の質が向上し、取引の安全性と効率性が高まるとの見解を示している。
日本企業・投資家への示唆・影響
日本企業にとってベトナムは引き続き成長著しい市場であり、M&Aは現地参入や事業拡大の有力な手段となっている。食品・小売・金融セクターでの取引が増加していることから、これらの分野に注力する日本企業は、現地の市場動向や規制環境を把握しつつ、VMAAの提供する情報やネットワークを積極的に活用することが重要だ。
特に、VMAAが推進する規制改善や専門家育成は、日本企業のM&A戦略を後押しする環境整備につながる。ベトナムにおける法務・会計・財務面での専門知識を持つ人材との連携や、信頼できる現地パートナーの選定においても、VMAAの支援やガイドラインが大いに役立つだろう。
また、外資規制緩和により、より柔軟な投資スキームが可能となっているため、合弁解消や株式取得比率の引き上げ、多角的な資本構成の検討など、多様な戦略を検討できる点も日本企業にとって追い風となる。これは、単なる新規参入にとどまらず、既存事業の再編や事業ポートフォリオの見直しにも活用できる。
加えて、VMAAは日本企業向けのセミナーや情報交換会を開催し、最新の法規制動向やM&A成功事例を共有している。これにより、日本企業はベトナムのM&A市場の現状と将来展望を理解し、リスク管理策を講じながら的確な投資判断を行うことが可能となる。
さらに、ベトナムにおけるデジタル化やグリーン経済へのシフトは、日本企業の技術やノウハウを生かす絶好の機会である。これらの分野でのM&Aを通じて、現地企業との協業を深めることで競争優位を確立できるだろう。
今後の展望・リスク要因
2026年以降のベトナムM&A市場は、100億ドル超の取引規模を目指す成長段階に入り、量的拡大と質的成熟の両面で次のフェーズに進むと予想される。VMAAは市場の透明性向上、規制環境の整備、専門家の育成を軸に、取引環境の改善と成長基盤の強化に取り組むことで、市場の成熟を促進していく見込みだ。
国有企業のさらなる民営化や国際的な投資誘致策の強化、資本市場の深化が進む中、M&Aは企業の競争力強化や事業ポートフォリオの再編に不可欠な手段となる。特に、デジタル化、グリーン経済、製造業の高度化といった政策課題に対応するための企業連携や戦略的M&Aの活発化が期待される。
一方で、リスク要因としては以下が挙げられる。
- 法制度の不透明性・変動リスク:ベトナムの法整備は進んでいるものの、解釈や運用の不一致、突発的な規制変更がM&A案件に影響を与える可能性がある。
- 情報開示の不十分さ:デューデリジェンスの質にばらつきがあり、情報開示の透明性向上が求められている。これにより、投資判断の正確性が損なわれるリスクがある。
- 経済・政治リスク:グローバルな経済変動や地政学的リスクがベトナム経済に波及し、投資環境が不安定になる可能性がある。
- 文化・経営慣行の違い:日本企業と現地企業間の経営文化や商慣行の差異が統合プロセスを難しくするケースもある。
これらのリスクに対し、VMAAは法規制の改善提言や専門家育成、情報共有の推進を通じて市場の健全化を図る役割を担う。日本企業もこれらのリスクを認識し、現地のパートナー選定や事前調査、リスク管理体制の強化に努めることが重要だ。
総じて、ベトナムのM&A市場は成長ポテンシャルが高く、VMAAの設立はその成長を支える重要なステップである。日本企業にとっては、これからの投資環境整備を活用しつつ、戦略的かつ慎重なアプローチで市場機会を捉えていくことが求められる。今後もVMAAは、政府や民間企業、国際機関と連携しながら、ベトナムのM&A市場を持続的に成長させるための基盤整備に努めることで、東南アジアのM&Aハブとしての地位をより確固たるものにしていくことが期待される。



