"ベトナムのAVAC Vietnam JSCは2026年5月8日、牛・水牛の皮膚結節病(Lumpy Skin Disease、LSD)ワクチン110万回分を韓国に輸出した。韓国市場は厳しい品質基準を持つが、AVAC社は世界動物保健機関(WOAH)の認定を受けた高品質ワクチンで需要を獲得。国産ワクチンの..."
ベトナムのAVAC Vietnam JSCは2026年5月8日、牛・水牛の皮膚結節病(Lumpy Skin Disease、LSD)ワクチン110万回分を韓国に輸出した。韓国市場は厳しい品質基準を持つが、AVAC社は世界動物保健機関(WOAH)の認定を受けた高品質ワクチンで需要を獲得。国産ワクチンの国際市場参入はベトナム獣医ワクチン産業の大きなマイルストーンとなった。
背景・経緯

Lumpy Skin Disease(LSD)は、牛や水牛に皮膚結節が形成されるウイルス性の感染症で、発熱やリンパ節の腫れ、皮膚の潰瘍化を引き起こし、重度の場合は死亡に至ることもある。特に発症した家畜は生産性が著しく低下し、乳量減少や肉質の劣化、繁殖率の悪化など畜産業に大きな経済的損失をもたらす。LSDは主にアフリカや中東、東南アジアを中心に流行し、近年は気候変動や家畜移動の活発化により感染地域が拡大している。
ベトナムでは2019年から2020年にかけて初めてLSDの発生が報告され、国内畜産業において深刻な問題となった。発生当初は国外からのワクチン輸入に依存し、感染拡大の抑制に努めてきたが、輸入ワクチンは価格が高く、供給のタイムリーさにも課題があった。さらに、国外製品の品質保証や現地での適応性についても懸念が残り、ベトナム政府および産業界では国産ワクチンの開発が急務とされた。
この背景を受けて、ベトナム獣医科学技術協会や農業省の支援のもと、国内の研究機関と民間企業が連携し、ワクチン開発体制の強化が進められた。AVAC Vietnam JSCは、現地の獣医研究所や大学との共同研究を通じて、LSDウイルス株の分離・培養技術や免疫効果の検証を重ね、数年にわたる技術蓄積を経て国産LSDワクチンの商業生産に成功した。これにより、ベトナムはLSDワクチンの生産・供給において自給体制を確立し、輸入依存からの脱却を実現した。
具体的な内容・数値データ
AVAC Vietnam JSCが韓国に輸出したLSDワクチンは、110万回分に相当する。具体的には、10回分バイアルが約100万回分、5回分バイアルが10万回分超という構成であり、韓国政府が2026年3月に発注した大型の公的ワクチン接種キャンペーン向けの供給である。納品期限は同年5月15日までに設定されており、短期間での大量供給能力が求められた。
韓国は畜産業が高度に発展しており、畜産物の品質や安全性に関する規制が非常に厳しい。ワクチンに関しては、世界動物保健機関(WOAH)の基準を満たすことが必須であり、製造ロットごとに厳格なバッチ評価が求められる。AVAC社のワクチンは、ベルギーのWOAH参照研究所でのバッチ評価をはじめ、欧州およびアフリカの複数の国際機関の参照研究所でも試験・品質評価を受けており、その安全性と有効性が国際的に認められている。
この評価プロセスは、技術ドシエ(技術資料)の提出を含む厳格な審査を経ており、韓国側はワクチンの品質基準や国際試験結果の透明性と信頼性を高く評価した。これにより、韓国市場における国産以外のワクチンとしては異例の採用となった。
なお、韓国のLSDワクチン市場は年間約200万回分と推定されており、今回の110万回分輸出は約55%に相当する。これはベトナム製ワクチンの市場シェア獲得に向けた重要な一歩であり、今後のシェア拡大が期待される。
専門家・関係者の見解
ベトナム獣医科学技術協会の幹部は、「LSDの初発生からわずか数年で国産ワクチン開発を成し遂げ、国際認証を取得して輸出に成功したことは、ベトナム獣医科学技術の飛躍的進歩を示すものである」と評価する。加えて、「これによりベトナムは畜産疾病対策の自立化を進め、輸出先の多様化や技術水準の向上が期待される」と述べた。
ベトナム動物飼育協会の会長も、「今回の成功は、ベトナム企業が高度技術製品の研究・生産において国際市場で競争力を備えたことの証明だ。今後、さらなる技術革新と製品多様化により、畜産業の持続的発展に寄与することが見込まれる」とコメントしている。
一方、韓国の獣医関係者は、「ベトナム製ワクチンが国際基準を満たしていることは両国の獣医衛生協力強化に資する。今後の継続的な技術交流や情報共有を通じて、地域全体の畜産疾病対策が進展することを期待している」と評価している。
日本企業にとっての意味
今回のAVAC社による韓国市場参入は、日本企業や投資家にとっても重要な示唆を含んでいる。まず、ベトナムの獣医ワクチン産業が国際競争力を備えたことは、同国がアジア域内の戦略的な生産・技術拠点として台頭していることを示す。
日本の製薬企業や農業関連企業にとって、ベトナムは既に製造拠点や研究開発拠点としての魅力を持つが、今回の事例は獣医・バイオ医薬分野における技術蓄積と品質管理のレベルが大幅に向上していることを裏付ける。これにより、共同研究や技術提携、製造委託(OEM)といった多様なコラボレーション機会が拡大する可能性がある。
さらに、アジア全域で畜産業の近代化・拡大が進む中、畜産用ワクチン市場は2025年までに年平均成長率(CAGR)で約7~8%の成長が見込まれている。ベトナムを拠点とした製品供給は、コスト競争力と地理的優位性を活かして、アジア市場全体への迅速な展開を支援することができる。
また、ベトナム政府は獣医科学技術の振興や輸出促進政策を積極的に推進しており、これにより外資投資や技術移転が促進されている。日本の投資家はこれらの政策動向を注視し、中長期的な成長分野への戦略的投資を検討することが重要だ。安定した政策環境と成長市場を背景に、リスクを抑えつつ収益機会を拡大できる可能性が高い。
今後の展望・リスク要因
ベトナム製LSDワクチンの韓国輸出成功は、ベトナム獣医ワクチン産業の国際競争力を示すだけでなく、アジアの畜産分野における技術革新の波を加速させることが期待される。今後の展望としては以下が挙げられる。
国際市場でのさらなる拡大
韓国市場での成功を踏まえ、東南アジア諸国(タイ、フィリピン、インドネシアなど)や中東、アフリカなど、LSDが問題となっている地域への輸出拡大が見込まれる。特に、WOAH認定を受けた品質は国際的な信頼の獲得に大きく寄与し、輸出拡大の追い風となる。製品ラインナップの多様化と技術革新
ベトナム企業はLSDワクチンに加え、口蹄疫、牛結核、鳥インフルエンザなど主要な家畜疾病に対応するワクチンや医薬品の開発を進める可能性が高い。これにより製品群の多様化と技術力向上が期待される。品質管理・安全基準の継続的遵守
先進国市場でのブランド価値を維持・拡大するため、WOAHや各国規制機関の基準を常に満たす品質管理体制の強化が不可欠である。品質問題が起これば信用低下や市場撤退のリスクもあるため、継続的な改善が求められる。日越間の技術協力・ビジネス連携の促進
日本企業はベトナムの成長戦略に積極的に参画し、自社の技術力やマーケティング能力を活用して両国の畜産・獣医産業の発展に寄与できる。政府間協力や産業連携を推進し、具体的な技術移転や共同開発プロジェクトの展開が望まれる。
一方で、以下のリスク要因も存在する。
- 規制環境の変化:輸出先国の規制強化や認証要件の変更により、輸出許可や製品承認が遅延する可能性がある。
- 市場競争の激化:欧米やインド、ブラジルなどの大手獣医ワクチンメーカーがアジア市場に積極参入しており、価格競争や技術競争が激しくなる恐れがある。
- 疾病変異リスク:LSDウイルスやその他畜産疾病の変異により、現行ワクチンの効果が低下するリスクがあるため、定期的な製品改良や新規ワクチン開発が必要となる。
- 供給チェーンの脆弱性:原材料調達や物流の問題により生産・供給が滞る可能性があり、安定供給体制の確立が鍵となる。
総じて、AVAC社の韓国向けLSDワクチン輸出はベトナムの獣医ワクチン産業にとって画期的な出来事であり、今後の国際展開に向けた重要な足掛かりとなる。日本の企業・投資家にとっても、ベトナム市場の成長ポテンシャルを見極めるうえで注目すべきトピックであるといえる。



